第1章 就活

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 成田は都内にある大学を卒業した。  就活に失敗し、故郷である神奈川県朝霧市にやって来た。大ヒットした朝の連続テレビ小説『あまちゃん』がクライマックスを迎えた頃、成田はハローワーク通いにいそしんでいた。  昨日も《ご健闘お祈りいたします》ってパソコン教室から不採用通知が届いた。 「燃やしてやろうかな?」と、冗談をいうと「そんな態度だから落ちるのよ?」と母親からどやされた。  今日も同じく朝霧駅東口からシャトルバスに乗り、ハローワークに向かう。  バスのナカでキャアキャア騒ぐカップルに殺意を抱いた。メガネの奥から睨みつけてやった。  バスを降りてトボトボと歩いていると、デップリ太ったオッサンが近づいてきた。石原裕次郎がかけてそうなゴツいサングラスをしている。  あとで31歳だと知ってビックリした。  51じゃないの? 「お仕事をお探しですか?」  このときは彼が神様に思えた。  まさかとんでもない地獄が待ち受けていようとは夢にも思わなかった。 「はい、就活に失敗しちゃって」 「それはそれは、私はこーゆーモノです」  デブが名刺を差し出した。 《ケンタウルス有限会社 相談員 那谷甚助》  ナタニって呼ぶらしい。 「僕は成田っていいます」 「もし、お時間がよろしければ相談に乗りますよ」  ハローワーク近くの喫茶店に入った。  那谷のおごりでホットコーヒーを飲んだ。 「成田さんはどのような仕事に興味がおありですか?」 「自動車会社に就職したいんです。あ~銀行も捨てがたいなぁ」 「わかりました~。それでは履歴書を書いていただけますか?」  那谷にはカバンから履歴書を出した。文具店によく置いてあるヤツだ。  成田は名前、住所、電話番号などを書いていった。学歴の欄で手が止まった。偏差値の低い私立大学なんて誰も相手にしない。小・中・高までは正確に書き、東大法学部卒と偽りを書いた。  努力ややる気じゃ就職は出来ない! 「ほ~う、すごいじゃないですかぁ~?昌平坂」 「ショーヘーザカ?何ですかそれ?」 「東大の前身、昌平坂学問所ですよ。知らないんですか?」 「おっ、お詳しいですね?」 「常識ですよ~、あっ、職歴の欄でいいんで?つきたい仕事と会社名を書いてください。志望動機は書かなくていいです」  記入が終わった。 「1週間ほどお待ちになってください」
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