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”ワァァァァ!”と鳴りやまんばかりの拍手と歓声。
会場中が興奮し、熱気に包まれている中、俺は優勝の喜びなんか感じる余裕などなかった。
ゴール寸前のところで察知した”嫌な感覚”が頭を支配する。
馬主やファンたちへのサービスをする間もなく、コイツの背中から飛び降りた。
「大丈夫か?」
全力で駆け抜けた後の反動で、大きな呼吸を繰り返している相棒の顔を覗き込んだ。
その直後――――
「あぁぁーーーーっ! どうしたことでしょうか? トウカイコウテイが!
トウカイコウテイがその膝を曲げました。
どうやら、足を負傷した模様……」
決して弱味を見せないコイツが初めて見せた、痛みを訴えるようなカオ。
自分がしんどいのにも関わらず、目の前にいる俺を自分の体で押し潰さないよう前足を折り曲げ、ゆっくりと倒れていく心優しき相棒を、俺は支えることも出来ず、ただ茫然と見つめ続けるしか出来なかった。
“過労骨折”“靭帯損傷”
競走馬には致命傷でもある深手を負っていた。
これだけ強い馬であれば、ゆっくり放牧し、種馬としての第二の人生もあるのであるが……
コイツの瞳が。
この誇り高き相棒が。
俺に最後の願いを訴えていた。
“このまま栄誉ある死を”
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