少食でもおとこのこ

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店を出て少し走る。今日はパンプスだから良かった。足を挫くことも溝にヒールがはさまることも心配しなくていい。川沿いを少し行ったところのベンチに駅名の彼は座っていた。走ったので少し息が切れている。私の息遣いに気付いたらしく(私どれだけゼェゼェしてたのだろう、恥ずかしい。)彼は私を見るなり逃げ出そうとした。 「待って!」 自分でも驚くほど大きな声が出た。駅名の彼も驚いている。 「さっきの、その、1人で食べる量のことだけど、気を悪くしたのならごめんなさい。私、いっぱい食べる人好きだから、その、」 自分が原因で店を出てしまったのかどうかも分からないのに謝罪の言葉を考えているので、よい言葉が何も思いつかない。 「僕・・・」 私がたじたじしていると彼の方が口を開いた。 「僕、本当は少食なんだ・・・・」 「へ・・・?」 私の拍子抜けした声は川のせせらぎに掻き消された。 「さっきお店で頼んだ量なんて、とてもじゃないけど1人で食べきれないんです。でも、ユキさんいっぱい食べる人が好きって言ってたから・・・!」 中学生の告白のような、いま自分が吐き出せる全ての言葉を使って話しているような、そんな一生懸命な姿に心打たれてしまった。私が適当に言った好みのタイプを真に受け、その場でアピールしようと料理を大量に注文したというのに、張本人に「え?こいつ本気でこの量食べるの?」といった空気を醸し出されたら、そりゃあ店を抜け出したくなるという話だ。 「あの、コンビニ行きませんか?」 私はよく分からなくなり変な提案をした。 「あなたの好きな食べ物、教えてください。一緒に食べましょう。」 「でも僕、いっぱい食べられないですけど・・・」 彼の手を取ってコンビにへ向かう。 「少食でもおとこのこですよ。」                      【完】
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