わたしの春

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
図書委員になってからは図書室に毎日いるようになった。それは真面目に仕事がしたいとか本が好きになったわけではなくて単にほんの少しも「青春」に触れたくなかったのだ。図書室の先生はそんな反抗期の私にも優しく接してくれた。でも当時の私はそれが気に入らなくて無視したりきつい態度をとっていた。  ある日、いつものように図書室に行くと先生が座っている席に見知らぬ生徒がいた。彼はまるでここは自分の場所だとでもいうように文庫本を開いて本の世界に入っていた。  「ちょっと。そこ先生の席だけど」  私は彼を自分勝手で周りの迷惑を考えないような人間だと勝手に思い込んだ。先生の為ではなく自分の為に注意をした。彼は私のほとんど悪口のような注意に特に気にする様子もなく顔を上げて微笑んだ。  「大丈夫。許可はとってるから」  そう言ってまた本の世界に入っていった。たったそれだけの態度がなぜか気に入らなくて私は愚痴るように言葉を浴びせた。  「あんたみたいなのが……あんたみたいなのがいるからこんな世界になるのよ!つまらない言い訳しないでよ!どうせ適当についた嘘なんでしょ!そんなことする奴が多いからこんな嫌な世界になるの!あんたもどうせ私のこと笑ってるんでしょ!つまらない根暗なやつだって!なんでみんな遊んだりできるの!なんでみんな楽しそうにするの!なんでみんな笑ってるのよ!なにが青春よ!なにが!なにが……」  私は泣きながら彼に醜い部分をぶちまけた。弱くて勇気がなくてそんな自分だから仕方ないって思って溜め込んで。きっと彼に言ったのは弱そうだったからだ。自分より弱い人間だから言っていいんだって思ってしまったんだ。彼が私の元に来た。あぁ、きっと殴られるんだろうな。そう覚悟していると、彼は私の頭を優しく撫でた。  「大丈夫……大丈夫だよ」  そんな言葉だけで涙が出てきた。さっきとは違う涙だ。優しさにイライラする。違う、うれしいんだ。こんなことでうれしがる自分が、こんなことを求めている自分の弱さが、嫌いだったんだ。彼は私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。景色がやけにキラキラして見えた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!