真夜中の訪問者

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ピンポーン。 「────うぁ…?」 真夜中、不意に鳴ったインターホンの音で無理矢理意識を引き戻した湊斗は、ぼんやりとする頭を揺すりながらのろのろと起き上がって玄関に向かう。 ピンポーン。 「…誰だよ。抑、俺の部屋なんて誰も来る筈が───」 職業『自宅警備員』。そんな言葉を平然と公言してしまう湊斗は、中学卒業後直ぐにアパートに引っ越した。…女手一つで自分を育ててくれたアクティブな母親が県外進出を希望したのと、同時に中学すらまともに行っていない自分を一度も怒らなかった彼女に対する小さな恩返し。母親の手は借りず、自活すると約束して今に至るのだが。 「はい、どちらさ───」 「パパ!」 渋々ドアを開けると、其処には動物の耳を付けた小さな男の子が鎮座していた。そして、湊斗を見や否や、とんでもない言葉を発して彼に抱き着いたのである。 「は?…パパ…?俺…が?」 勿論、湊斗にはその様な事に至った記憶など無い。更に、獣相手なんてそんな─────と思っていると。 「僕、捨てられたんです!」 「…新聞の勧誘はお断りです」 くるくる動くドングリの様な目を見ていると、思わず気を許してしまいそうになり、湊斗は周章てて気を引き締めた。だが、その子供に手をペロリと舐められた瞬間、ある事に気付く。 「…お前」 「思い出してくれた?パパ」 「パパじゃねえし」 冷たく言い放つ湊斗だったが、確かにこの感触を覚えていた。先週末の雨降りの日、バイト帰りに通り掛かった公園でずぶ濡れになって小さく鳴いていた捨て猫に、その日の食材を分け与え、更に傘まで置いて行った時の事。…お礼とまでに湊斗の手を舐めた子猫の舌先のザラザラしたそれだった。 「つか、何でヒトガタなんだよ」 「大丈夫、他の人には猫にしか見えないから!」 …寧ろそれだと子猫に話し掛ける寂しい人みたいじゃないか、と内心毒吐いた湊斗は文句を言いながらも訪問者を招き入れた───。
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