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 その日、彼は友人と待ち合わせをしていた。場所はとある映画館。  一緒に観ようと約束したのだが、どうやらまたすっぽかされたらしく、時間になっても彼女は現れなかった。毎度のことなので慣れていた彼は、携帯電話で現在の時刻を確認した後、メールを送った。 『もしかして まだ寝てる?』  今時ならLINEだろうが、当時はまだスマートフォンすら無く、二つ折りタイプの携帯電話だった。  彼はその携帯電話をパーカーのポケットにしまうと、代わりにチケットを二枚取り出した。一枚だけのつもりが、一緒に入れていたので分けて取り出せなかったのだ。なので、彼女の分はすぐに戻した。  そのチケットは買ったものではない、彼女が別の友人から貰ったものだ。一緒に観ようと誘われた際に、今みたいに予定の時間に来られないかもしれないからと預かっていた。  それもいつものこと。だから損はしないが、一緒には観られないので、懐はともかく心は寂しかった。  彼女が来てくれるのを期待してギリギリの時刻まで待っていたので、彼は急いだ。まずはトイレに行って小便を済ませ、それからコーラとポップコーンを買った。それらとチケットを両手に持ち、受付を抜けた。     
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