ひじきのこころ

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ぼくがこの家に来たのは今からずっと前、ちいちゃんが赤い大きなカバンを背負っていたころのこと。ぼくはあの赤いカバンも大好きだった。とにかくつるつるとしていて、触るとひんやりとつめたいそれは、ちいちゃんに毎日背負われてでかけていった。そういえば、あれはどこにいったんだろう。ちかごろはめっきり見なくなった。ちいちゃんが使わないなら、ぼくがなかに入って遊びたかったなあ。なかにはいっつもたくさんの本が入っていて、ぼくが入る隙間なんてなかった。あれは、どこにいったんだろう。 ぼくの家は、ママとパパとちいちゃんとぼくの、四人ぐらしだった。ママはいつもエプロンをつけて、こわあい火をあつかう仕事をしていた。ずっと冷蔵庫と火の間をいったりきたりしているから、そこが大好きなんだと思う。パパはあまり家にいない。家が好きじゃないかと言われれば、そうじゃない。外では家族のためにいっぱいおじぎをしていることをぼくは知っている。家のなかでも四角い機械に話しかけてはおじぎをしているから、パパはおじぎをすることが大好きなんだ。 そしてちいちゃん。ちいちゃんは今ではおっきくなって、ママと同じくらいの背になった。毎日リュックをしょってどこかへでかけている。ぼくはちいちゃんが帰ってくることがうれしくてうれしくて、夕方になるといつも玄関の前にいって待ってしまう。ドアが開くと飛び跳ねるぼくを笑って、 「ただいま」 って言うから、ぼくもママと一緒に 「おかえり」 って言う。 ちいちゃんとぼくのしゃべる言葉はちょっと違うけど、なんて言っているのかはわかるんだ。     
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