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 忘れよう。もう私には関係のない話だから。天井に向かって左手を伸ばすと、花が感情の色が見えない目を見開いて、ベッドに横たわる私のことを見下ろしていた。 ◆  仙台と言えば牛タン。大学生のとき、そう言ったらカンナに文句を言われた。宮城にはおいしい魚料理もいっぱいある、と。でも私はそこまで魚が好きではないので、打ち上げの会場はその両方が食べられるところを選んでもらった。仙台公演は珍しくスタッフもサポートメンバーも一緒の全打ちで、喧噪がさざ波のように広がっていた。 「アオイちゃん日本酒もいけるんだ?」  隣に座っていたローディーの平松さんが話しかけてくる。平松さんの柔和な顔は少し赤らんでいた。平松さんの目の前にはグラスが入った升が三つ。酒は好きだがそれほど強くない身としては、このペースで飲めるのはうらやましい。 「それなりに。強いわけじゃないですけど」  次の公演は三日後の東京。多少は羽目を外してもいいけれど、私たち〈カエルレア〉の初めてのツアーはまだ折り返し地点にも来ていない。喉には気を遣わなければならないし、酔っ払いすぎて醜態を晒すわけにもいかない。ふと目をやると、カンナはサポートメンバーの田町さんと話をしながらおいしそうに刺身を食べている。飲んでいるのはいつものようにパッションフルーツのジュースだろう。     
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