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月の神様
月の光を頼りに、僕は逃げるようにして、そこをさまよっていた。
周りに見えるのは、獣道と、高く、空にまで届きそうな木の数々。それらは、道を照らす貴重な月の光さえもさえぎろうとしていた。
一瞬、周りが完全に闇に包まれる。そしてまたわずかな光が訪れ、およそ道とは言えないだろう、目の前の森を照らす。
どれくらい、この終わりの無い空間をさまよっただろうか。一時間、いや二時間。もっとかもしれない。
時計など持ってもなく、自身の感覚がいくつか麻痺しているようだった。
それでも進まなくてはいけない、時間の感覚がなくなろうと、方向感覚がなくなろうと、今はこの木々と闇に包まれた空間から逃げなくてはいけない。
身に迫るのは恐怖。それに伴い吐き気をも生む。このままでは恐怖という実態の無い物に支配されてしまう。
何を馬鹿なと、自分を言い聞かせるも、それは無駄な事かもしれない。この恐怖とは実に面白いもので、そこに存在しない物であっても、そうあるのではないかと錯覚させてしまう。
木と木の間に、何か得たいのしれない物がある。あるいは誰かが自分を遠くから見ているのではないかと。
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