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鼻孔をつく不快な臭いのなか、砂糖の味がギュッと舌を焼くような熱さ。不可解なそれに、マコトは身を強ばらせた。
――カシャ、と 。携帯電話のカメラ機能が、サウンドを流した――――。
……過去の自分のことは、よくわかっている。
いじめられっ子で、教師には無視されて、親の顔も知らない、孤独な人間。
アニメや漫画の『設定』にありそうな、ありふれた不幸で固められた現実。それがマコトの見てきた世界だった。
だが、宇津木がそれを鮮やかに壊した。つまらない破滅の物語などいらないと、落ちた火種を踏んだ。
そして携帯電話で撮った画像を使い、マコトを脅迫したのだ。
「これ、誰にもバラされたくないでしょ?」
…そんな宇津木のセリフなど、怖いはずがなかった。バレたところで、なにも恐ろしくない。
自殺が失敗したら放火未遂で少年院に放り込まれる。そんなこと、考えていないはずがなかったのだ。
実名報道されたって、どうせ大切な人はどこにもいない。
そもそも、宇津木の行動を無視することこそ容易かった。
携帯電話を奪うことだって、いっそ殴って気絶させることだって、マコトにはできた。
学校とともに焼かれる死体を増やすのも、ガソリンまみれのこの場において、簡単な事であるどころかすぐさま実現しそうな未来そのものだった。
それでも。
マコトが宇津木に返したのは。
「……僕に何をして欲しいんだ」
という全面降伏の一言だった。
直後、宇津木はパッと頬をピンクに染めたかと思うと、フードを引っ張って顔を隠した。
その姿に、マコトは生まれて初めて大正解のルートを見つけたような、そんな安堵を得たのだった。
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