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マコトは荷物を脇にかかえ、冷えたスーパーのなかに入った。
すこし生臭い。ここは魚の品揃えがいい店なのだ。
宇津木は菓子コーナーにいた。
しゃがみこみ、真剣な顔で数十円程度の駄菓子を選んでいる。
床に置かれた籠のなかには、ソーセージと卵、キャベツ一玉が入っていた。
「またこれかよ」
マコトがこぼすと、振り返ってこちらを見上げた宇津木が低い声で「うるさい」と文句を言った。
キャベツとソーセージを炒めて卵でくるんだものをここ数日食べ続けている。
やっとキャベツがなくなり別のものが食べられると思ったのだが、どうやら今週もキャベツが75円になったらしい。
「最近は巻かないロールキャベツというものが流行っているらしい」
言ってみたが、無視された。
その後も「シャケが安い」やら「豚肉3パック980円」やら「トンカツが半額」といったことを宇津木に聞こえるよう言ってみるものの、マコトの望みは何一つ叶えられなかった。
そのとき、ふと、視界の端に意外なものが入り込んだ。
それは魚コーナーでイカのパックを手に目を細めている、宮尾だった。
「うつぎ、おい」
彼女には広すぎる襟ぐりをひっつかむ。
「ぐぇっ」と冗談みたいな音声が聞こえた。
「見ろよ」
マコトが指差した先をみて、宇津木が目をしばたたく。
宮尾はイカのパックをコーナーに戻していた。
スーツ姿で籠を持つ担任教師を見ることがあるとは思わなかった。
バレても面倒なので見ない振りか、とマコトは思う。が、視線を戻したときには宇津木はもういなかった。
「ひっ、あの馬鹿っ…!」
怯えすら滲んだ悪態が出る。
マコトは慌てて鮮魚コーナーへ走る宇津木の後姿を追いかけた。
宮尾は宇津木に気付き、さらにそれを追うマコトの姿にぎょっと目を見開いた。
「せんせ、こんばんは」
優等生のように挨拶をする宇津木に戸惑いながら、しかしすぐに落ち着いた顔で宮尾は「ああ、こんばんは」と返した
。宇津木は何が楽しいのか、余った服の袖で口を隠してクスクスしている。
「………ちわ」
渋々、マコトも宮尾に言った。
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