4.教師は異端の男女と交流する

2/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
マコトは荷物を脇にかかえ、冷えたスーパーのなかに入った。 すこし生臭い。ここは魚の品揃えがいい店なのだ。 宇津木は菓子コーナーにいた。 しゃがみこみ、真剣な顔で数十円程度の駄菓子を選んでいる。 床に置かれた籠のなかには、ソーセージと卵、キャベツ一玉が入っていた。 「またこれかよ」 マコトがこぼすと、振り返ってこちらを見上げた宇津木が低い声で「うるさい」と文句を言った。 キャベツとソーセージを炒めて卵でくるんだものをここ数日食べ続けている。 やっとキャベツがなくなり別のものが食べられると思ったのだが、どうやら今週もキャベツが75円になったらしい。 「最近は巻かないロールキャベツというものが流行っているらしい」 言ってみたが、無視された。 その後も「シャケが安い」やら「豚肉3パック980円」やら「トンカツが半額」といったことを宇津木に聞こえるよう言ってみるものの、マコトの望みは何一つ叶えられなかった。 そのとき、ふと、視界の端に意外なものが入り込んだ。 それは魚コーナーでイカのパックを手に目を細めている、宮尾だった。 「うつぎ、おい」 彼女には広すぎる襟ぐりをひっつかむ。 「ぐぇっ」と冗談みたいな音声が聞こえた。 「見ろよ」 マコトが指差した先をみて、宇津木が目をしばたたく。 宮尾はイカのパックをコーナーに戻していた。 スーツ姿で籠を持つ担任教師を見ることがあるとは思わなかった。 バレても面倒なので見ない振りか、とマコトは思う。が、視線を戻したときには宇津木はもういなかった。 「ひっ、あの馬鹿っ…!」 怯えすら滲んだ悪態が出る。 マコトは慌てて鮮魚コーナーへ走る宇津木の後姿を追いかけた。 宮尾は宇津木に気付き、さらにそれを追うマコトの姿にぎょっと目を見開いた。 「せんせ、こんばんは」 優等生のように挨拶をする宇津木に戸惑いながら、しかしすぐに落ち着いた顔で宮尾は「ああ、こんばんは」と返した 。宇津木は何が楽しいのか、余った服の袖で口を隠してクスクスしている。 「………ちわ」 渋々、マコトも宮尾に言った。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!