4.教師は異端の男女と交流する

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「なんだお前ら。揃ってお使いか?」 「ちげーよ。買い物」 「何が違うんだ」 「親とかいねーし、俺ら」 マコトが宮尾と話している最中でも、宇津木はじっとしていない。 宮尾の籠のなかを覗き込み、「牛の肉ある!」と羨ましそうな声を出した。 肉と、じゃがいもと、にんじんと、たまねぎ。極めつけにカレールーが宮尾の持つ籠には入っていた。 「カレーかよ」マコトが言うと、宮尾は「それがどうした」と不遜そうに言う。 それに宇津木が真剣な顔を作る。嫌な予感がしてマコトは彼女の腕をつかむが、もう遅かった。 ぐぅうううううううう。 ………嘘だろう、という音が宇津木の腹から鳴った。 「――俺、実はキャベツとソーセージ食べないと死ぬんだ」 マコトが宇津木の耳元で囁くが、そんなもの無駄だった。 「カレー食べたい」 宇津木が切なそうに宮尾を見上げて言う。マコトは頭が痛くなってきた。 「宮尾秀正」 「フルネームはやめろ。あと先生をつけなさい」 「秀正先生、俺もカレー食いたい」 開き直って便乗してやる。 「水商売している親に放置されてる青年に慈悲を」 とヤケクソになって言うと、宮尾は皺をぎゅっと寄せた己の眉間を指で揉んだ。 たっぷり1分ほど沈黙し、宮尾はアンテナのついた古い携帯電話をスーツのポケットから取り出した。 「同居人に確認をとる」 人気の少ない日用品コーナーへ移動し、宮尾は電話をかけた。 聞き耳を立てる。電話の相手が何を話しているかまでは聞こえないが、雰囲気的には明るい感じがした。 「……許可が下りた」 宮尾がいっそ忌々しげな様子で言う。いつの間にか宇津木は籠を手放していて、シールのついたチョコボールの箱だけを持っていた。 「……お邪魔しま、す?」 マコトが気まずさから変な笑みを浮かべてそう言うと、宮尾は長い溜め息をつき、「今回だけだ」と呟いた。
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