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「なんだお前ら。揃ってお使いか?」
「ちげーよ。買い物」
「何が違うんだ」
「親とかいねーし、俺ら」
マコトが宮尾と話している最中でも、宇津木はじっとしていない。
宮尾の籠のなかを覗き込み、「牛の肉ある!」と羨ましそうな声を出した。
肉と、じゃがいもと、にんじんと、たまねぎ。極めつけにカレールーが宮尾の持つ籠には入っていた。
「カレーかよ」マコトが言うと、宮尾は「それがどうした」と不遜そうに言う。
それに宇津木が真剣な顔を作る。嫌な予感がしてマコトは彼女の腕をつかむが、もう遅かった。
ぐぅうううううううう。
………嘘だろう、という音が宇津木の腹から鳴った。
「――俺、実はキャベツとソーセージ食べないと死ぬんだ」
マコトが宇津木の耳元で囁くが、そんなもの無駄だった。
「カレー食べたい」
宇津木が切なそうに宮尾を見上げて言う。マコトは頭が痛くなってきた。
「宮尾秀正」
「フルネームはやめろ。あと先生をつけなさい」
「秀正先生、俺もカレー食いたい」
開き直って便乗してやる。
「水商売している親に放置されてる青年に慈悲を」
とヤケクソになって言うと、宮尾は皺をぎゅっと寄せた己の眉間を指で揉んだ。
たっぷり1分ほど沈黙し、宮尾はアンテナのついた古い携帯電話をスーツのポケットから取り出した。
「同居人に確認をとる」
人気の少ない日用品コーナーへ移動し、宮尾は電話をかけた。
聞き耳を立てる。電話の相手が何を話しているかまでは聞こえないが、雰囲気的には明るい感じがした。
「……許可が下りた」
宮尾がいっそ忌々しげな様子で言う。いつの間にか宇津木は籠を手放していて、シールのついたチョコボールの箱だけを持っていた。
「……お邪魔しま、す?」
マコトが気まずさから変な笑みを浮かべてそう言うと、宮尾は長い溜め息をつき、「今回だけだ」と呟いた。
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