1.群衆は異端の入り口に触れる

1/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ

1.群衆は異端の入り口に触れる

宇津木(うつき)未羽(みう)、と名乗る彼女の声は小さかった。後ろにいる乙守(おともり)マコトにしか聞こえてないんじゃないかというくらいだった。 彼女はさらにパーカーの長い袖で口元を覆ったようで、恐らく「よろしくお願いします」と言ったのであろう。だけどその言葉は当然、誰にも届きはしなかった。 この学校は校則に緩いとマコトは聞いていた。だからこそ自分も、春休みのあいだに白に近い金まで脱色した髪を、黒に戻すことなく入学した。 しかしだからといって、初日からセーラー服の上に真っ白い、うさみみつきのパーカーを着てくる馬鹿なんて、宇津木以外にいないだろう。 宇津木はクラスの目に見える異物だった。 金髪に、崩した制服で、目付きの悪い己もたいがい浮いていたが、それ以上だった。 入学式のあとのホームルーム。宇津木はマコトの前の席で、パーカーを引っ張って始終顔を隠していた。 彼女は自己紹介から一度も声を出すことなく、その日を終えた。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!