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1.群衆は異端の入り口に触れる
宇津木未羽、と名乗る彼女の声は小さかった。後ろにいる乙守マコトにしか聞こえてないんじゃないかというくらいだった。
彼女はさらにパーカーの長い袖で口元を覆ったようで、恐らく「よろしくお願いします」と言ったのであろう。だけどその言葉は当然、誰にも届きはしなかった。
この学校は校則に緩いとマコトは聞いていた。だからこそ自分も、春休みのあいだに白に近い金まで脱色した髪を、黒に戻すことなく入学した。
しかしだからといって、初日からセーラー服の上に真っ白い、うさみみつきのパーカーを着てくる馬鹿なんて、宇津木以外にいないだろう。
宇津木はクラスの目に見える異物だった。
金髪に、崩した制服で、目付きの悪い己もたいがい浮いていたが、それ以上だった。
入学式のあとのホームルーム。宇津木はマコトの前の席で、パーカーを引っ張って始終顔を隠していた。
彼女は自己紹介から一度も声を出すことなく、その日を終えた。
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