1.インクと涙

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 それに動じることなく、直哉はマグカップの中のコーヒーを一口啜った。その態度が気に入らないのか、芙美は眉間の皺を一層深くし、もう一度、ぐい、と人差し指を直哉に向けた。 「先生には、今度の文化祭のチラシを作るって仕事があるでしょ! 進んでる? もう文化祭まで一か月なのに!」 「進んでる。気にするな。席に戻れ」  芙美の質問に簡潔に答え、あっちへ行け、と右手を振った。 「嘘だ。絶対嘘だ」  芙美は疑わしげな目を向けて、彼のパソコンを見ようと回り込む。しかし、ディスプレイのスイッチを切られ、画面は真っ暗になってしまう。 「あーっ!」  真っ暗闇な画面に、芙美の間抜けな貌が映り込んだ。 「ブス」 「先生!」  再び言い合いが始まりかけた時、部室の扉が開き、男女の二人組が入ってきた。 「まーたやってるよ」 「ホント、仲がいいのか、悪いのか」 「悪いに決まってんだろ」  入ってきた二人組に、直哉は呆れたようにそう返した。  今年入学してきた一年生の、東雲金吾と金城美湖だ。ちなみに芙美も一年生で、彼らと同級生である。  彼らは手に持った、中身が一杯のビニール袋を部室の中央に置かれた大テーブルの上に置いた。形の崩れた袋から、様々なパッケージが覗く。それを見た芙美の眼の色が変わる。 「おお! みこっち、わかってるねえ! 頭を使うと甘いものが欲しくなるんだよねえ」     
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