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第一話 八雲姫
何だか今日はいつもより冷えると思って廊下に出てみれば、ちらちらと粉雪が舞いだしていた。
「今年ももうそんな時期なのね……。」
時葉(トキワ)は少し手を伸ばして粉雪に触ろうとした。
「姫様!こんなところにいては御身体に障ります!ただでさえ具合が悪いと言うのに……!」
けたたましい声と共に乳母が時葉の手をとった。
「あら時雨、とても綺麗だからちょっと触ろうとしただけよ。
それに今日は体調が幾分良い気がー」
そう言いかけると、時葉はゴホゴホとむせ込んだ。
「姫様!大丈夫ですか!!!」
乳母の時雨が血相を変えて時葉の顔を覗き込む。
青白い顔をしながら時葉は微笑んだ。
「気分が良くても身体は言うことを聞いてくれないみたいね。」
息苦しそうにしながらも、時葉は笑顔を作ってみせる。
「さあ姫様、中に入りましょう。今日は一段と冷えそうですから。」
時雨は時葉の背中をさすりながら、部屋へと誘導した。
時葉は都で評判の姫であった。
美しさはさることながら、学問の才もあり何より好奇心旺盛で利発な姫であった。
時間さえあれば車を出し、様々な場所へと赴いた。
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