赤いアネモネ

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 わたしの通う高校の生徒は黒い。  セーラー服も学ランも、どちらも黒いデザインだからだ。  その黒い人並みを早足で抜けて、教室へ滑り込む。  三年二組、そこがわたしの教室。  窓際の一番後ろ。その机の上から、長い脚が降りていた。 「でさぁー、昨日のシューくんのドラマ」 「見た見た、かっこよかったよねぇ!」 「今度のシューくんのイベント、行く?」  短いスカート、必要以上に明るい髪の毛。薫る香水と、長く伸ばされた睫毛。クラスの中心的女子。  わたしとは、住む世界がまったく違う女の子たちだ。  その窓際の一番後ろはわたしの席だけれども、それに何か言ったりしない。言ったところで、意味なんてない。だから、言わない。  彼女が座っているわたしの机。その後ろに鞄をそっと置くと、逃れるようにベランダに出た。  教室の笑い声を背中にうけながら、ベランダからグラウンドを見下ろす。  一年生の男の子達が、楽しそうにサッカーをしていた。  まだ今日は始まったばかりなのに、ズボンがもう砂で汚れている。乾燥している校庭の砂は、彼らの動きにあわせて砂煙を巻き上げる。
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