安芸くんは、ドS男子だ。

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 ――宝来(たからぎ)高校には、王子さまがいる。  さわやかな十月の風がそよそよ吹く中、生徒たちが続々と登校してくる。  門をくぐると、白を基調にしたモダンなデザインの校舎。随所がビビットカラーに塗られ、常緑樹の並木道が訪れるすべてのものを迎え入れる。  正面に見えるのは、創立以来ずっとそこにあるややレトロな大時計。  その大時計が、午前八時を示す。  途端に生徒たちの視線が、ある一点に集中する。  ――『彼』のお出ましだ。 「安芸(あき)くん、おっはよー!」 「オハヨ、安芸クン」 「あああああああ安芸くん、おおおおはよぉっっ」 「はよーっす安芸。今日もイッケメンだねぇ」 「Good morning, Mr.Aki」  女子生徒の黄色い声、  上級生の大人ぶった声、  内気そうな子の緊張しまくった声、  男子生徒の呆れ半分の声、  留学生のトムくんの声……まだまだあるけど、全部書くことは到底不可能なので以下省略。  いつの間にかごった返しだった校門付近には、人垣ができていた。テーマパークのパレードよろしく生徒たちは(おっと先生も混ざっとるがな)花道を作っていた。 『彼』のために。 『彼』のご登校を邪魔しないために。 「安芸くーん、こっち向いてぇー!」  親衛隊(古い)の皆さんだ。数に物を言わせて、恐れ多くも王子さまに要望をぶつける。  が、しかし。 「……うるせぇよ」  王子さまは冷たく低く言い放った。  鋭い視線を周囲に放ち、静かにしろと無言で命ずる。  パレードのゆるキャラのように愛想を振りまいたりはしない。  何故なら、  宝来高校の王子さま・安芸直也(なおや)くんは、『ドS男子』だからだ。
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