二週間後の遺品整理

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二週間後の遺品整理

 それは、何日前までは写真と呼ばれていたのだろう。  私の指先で摘まれている小汚い白紙には、ところどころ茶灰色のシミが残っていた。模様かと思っていたので、祖母の一言がなければ写真だと気付かなかった。 「連れてったんだ。長いこと、待ちぼうけ食らったもの」  この写真に、いたのだ。私にはわからない誰かが。  光の当たらぬ祖父の引き出しの奥。カビの匂いが染み着き、分厚いホコリの布団をかぶったアルバムに挟まれて、誰かがここに写っていたのだ。 「これ、どうしたらいい? 投げる?」  無造作に放置されていたのなら迷うことなく紙を捨てていただろう。引き出し、アルバムと丁重に仕舞われていたことが引っかかり、割烹着姿で掃除をしている祖母に聞く。すると、祖母は一瞥もせずに、細い糸に触れるような声音で言った。 「おらは知らん。あんたが見っけたんだ、どうすっかあんたが決めれ」  突き放すようだ、と思った。海町によくある浜言葉と祖母の出身地である東北の訛りをごちゃごちゃに混ぜた語り口によって、冷たいと感じてしまったのかもしれない。  部屋掃除に集中する祖母の顔は見えず、この紙の行き場は決まらない。他のものと一緒にゴミとして捨てるべきか、取っておくべきか。  悩んで手の止まる私をよそに、祖母は淡々と作業を進めていく。そして様々な祖父の私物を、ゴミ袋に放り込んでいった。
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