危ない車

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 そこには誰もいなかった。  こんな事故が起きているのだ。普通は五体満足でも車の外に出ているものだろう。だから車が無人でも不思議ではない。でも、確かに誰も乗っていなかった筈の車の後部座席からは、ミラー越しではあるがはっきりと、走行中に見た男のものらしき腕が垂らされていたのだ。  反射で振り向いたがそこには何もない。  今のは気のせいか。そう思いながらももう一度バックミラーを覗いてみる。すると、事故車の後部座席からは確かに腕が突き出されていて、横を過ぎようとする後続者達にしきりにちょっかいをかけようとしているのが見えた。  すぐに俺はミラーから目を逸らし、可能な限り事故現場や車が見えない場所まで走り去った。  どうやらあの車の事故は、運転手の不注意などではなかったようだ。  車自体が悪いのか、それとも運転手自身が憑りつかれているのかは判らないけれど、あんなモノが車に乗り込んでいたら、事故が起こるのも当然というものだろう。  せめてもの救いは、運転していた人が命に別状はなさそうだったということくらいか。  それにしても嫌なモノを見たなぁ。今後、ああいった者は二度と見たくないよ。  不愉快というよりは、げんなりした気分で目的地に向かい、用件を片づけて帰路についた。その途中。  行き過ぎる対向車線の一台に、後部座席から誰かが腕を出している車が見えた。  まさか。  心臓が跳ね上がりそうになるのを必死に抑え、極力センターラインから離れた位置を遅めのスピードで走行する。  あの車と隣合う。その際盗み見た対向車の後部座席には、人は乗っていないようだった。  行きに見た事故車に乗っていたモノが別の車に乗り込んだのか? だとしたら、今すれ違った車は…。  不吉な考えが頭の中を満たす。それを裏づけるように、今走ってきた道の遠くの方から何かの衝突音が聞こえた。 危ない車…完
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