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オレは女房と娘を同時に亡くした。
高速道路での自爆事故だった。
葬儀でオレが涙を流すことはなかった。気のいい友人たちは哀しみのあまり茫然自失となっていたから、と良く解釈してくれたが……
そうではない。
オレはオレが嫁と娘をいたぶり、いじめ殺したことを知っている。
仕事が上手くいかず給料が上がらない…… 後輩が役職に付いて後塵を拝することになった…… いろいろな理由は考えつくが、本当の理由はただ一つ。
オレの性格がそうだった、というだけでしかない。
ただ、独り身になってみると、つまらないことこの上なかった。給料は上がらなくても世間相場以上は稼いでいる。三〇代後半だが、趣味のランニングで体格も体力もそれなりに維持していた。女には困らなかったが、女房と娘以上の相手はいなかった。
充実していた生活が消え、タワーマンションの部屋で鬱々としながら過ごしていたある日、女房が娘に話していた「きつねごはん」を思い出した。
『困った時には「きつねごはん」にお願いするとええよ。なんでも望みを叶えてくれるんやで』
聞いたことがない「きつねごはん」に、その時は黙って話を聴いていた。
きつねごはんは生まれてすぐに淡路島から海に流された神だと言う。神々に捨てられ、対岸の小さな池、狐池にたどり着いた。近在の者たちは神の漂着に畏怖し、敬った。
地元で親しみを込めて「狐児はん」と呼ばれるようになった。神は気まぐれだったが、愛してくれる者たちには寛大だった。いなり寿司、おいなりさんが好物で、供えると食べに現れて、時には望みを叶えてくれたらしい。
オレはソファベッドに寝転びながら、闇の奥の天井を見つめていた。
楽しそうな女房と娘の笑い声が脳裏に響いた。
再び女房と娘を手に入れられることにオレは興奮していた。荒くなった呼吸をゆっくりと整え、起き上がった。
すぐにオレはいなり寿司の作り方を調べた。急いで近所のコンビニに出かけて、材料を仕入れた。結婚してから料理などしたことがない。手を切りながら、いなり寿司を必死に作った。
できあがると、暗い喜びで眠気を忘れた。
オレは女房の故郷に車を走らせた。
光が飛ぶように後方に消え去っていった。
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