公園の毎日

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公園の毎日

 俺は公園のベンチに座っていた。  仰ぐ空には雲一つなく、まさに清々しいという表現が似合う晴天だ。  眩しい日の光が公園中を照らしている。でも、公園に集う人達の足元にはことごとく影がない。  歩いている人も立っている人も座っている人も、誰にも存在しない。もちろん俺の足元にもだ。  いつからここにいるのかはもう忘れた。ただ気づけば俺はこの公園にいて、ずっとベンチに座り続けている。  日が沈むと意識がなくなる。日が上ると同じ場所にいて、日がなずっとそのままでいる。  俺だけでなく、周りはみんな同様だ。  歩く人は毎日同じコースを歩き綴るし、立っている人は明けても暮れてもその場に立ち尽くしている。  人間だけでなく、変わらないのは天気もだ。  いつも晴れている。雨が降るどころか曇りにすらならないし、暑くなることも寒くなることもない。  自分でも判ってる。もう俺は…ここにいる全員、誰も生きていないって。というか、そもそもこの公園自体、現実には存在していないものなんだろう。  幻の公園にもう生きてはいない人間達がたむろして、ただ同じ毎日を繰り返す。ここはそれだけの場所だ。  でもたまに『この世界』のバランスが崩れる時がある。  足元にくっきりと影を宿した、見なれぬ顔ぶれが現れる時があるのだ。  何かの弾みでこの公園に入り込み、また立ち去るだけの生きた人間。  どうせ関われないからと、ずっと気にすることはなかったが、ある時に思いもかけないことが起こった。  影を宿した人が、公園内の誰かと接触した。その瞬間、足元の影が入れ替わり、公園に入り込んだ誰かの代わりに、 今までここにいた誰かが表情をイキイキとさせて、それきり二度と姿を見なくなった。  あの瞬間、俺も周りも思ったんだ。『入れ替わることができるんだ』と。  それからは、毎日毎日、心のどこかで期待を抱いている。  公園の面々は、自分から自由に動くことはできない。入り込んだ人間が向こうから関わってくれるのを待つだけだ。  その、他者が関わってくれる瞬間を、みんな心待ちにして毎日を過ごしている。  もう一度影を宿してこの公園を離れる、その日が来ることを期待して、俺達の夜は今日も明けた。 公園の毎日…完
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