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第1章
黄昏れる。
だいたい毎日、黄昏れる。
音の微かな雨の日も、ねずみ色の重たい空の日も、
妖しい風が吹く日も、突き抜けるような青空の日も。
黄昏れる。
飯を食ってても、仕事をしてても、疲れてても、元気でも、外を歩いてても、友だちとしゃべってても、なんにも考えてなくてゴロゴロしてても。
天気のせいじゃない、気分のせいじゃない、出来事のせいじゃない。ほんとうにごくあたりまえに暮らしてて、そんなこと忘れて笑ったり、文句言ったり、無意識になんとなく過ごしてても、バカみたいにそれはやって来る。
いつもだ。ほぼ毎日だ。だいたい午後。でも、同じ時間じゃない。毎日、誰かが時間を設定してアラームをかけているみたいに、それはやって来る。ぼくの意思とは関係なしに。
あれは天体か何かの巡りみたいなもので、地球の時間じゃ計れないとか言うやつで、たぶん、ちゃちな人間の頭で理解できる理屈や数字や事情をすっ飛ばして、遠くて圧倒的などこかで、何かによって勝手に仕組まれている類のものなんだ、きっと。
だって、説明できない。それが何かもわからない。そうなる理由も知らない。ぼくの頭の中ではいつも、時間と風景と色が自分勝手に経過する。さっきまでただの明るい昼間だったのに、その間に太陽は着々と大きくなっていて、知らぬ間に傾き始めていて、そのうちそれはやって来る。
そんなことは忘れているはずのぼくに、ぼくのところだけに。
あれが来る前ぶれはすぐにわかる。心臓の芯がヒュンとなって、耳の奥がじんじんとする。
サワサワサワサワ・・・・・。音にならない音がして、それを首の根元が勝手に感知して、どこか胸騒ぎに似たなんとも言えない気持ちになって、体に力が入らなくなる。動けなくなる。
ぼくは思う。
ああ、あれが来る。あの時間が来る。
太陽が厚い雲に隠されて光が見えなくても、時間を見る暇もないくらい忙しくても、それはもう、どうやったって逃れられないぼくの中の黄昏れで、ぼくはイヤなんだ、嫌いなんだ、だってあれは小さい頃に見た夢みたいに、何の説明もなくただ心に訪れる。
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