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それを確認したらしいふわふわ頭の彼の目が、きらっと輝いてシローを見上げる。はい、と答えると、歓喜の声とばかりに彼の腹がぐううと盛大に鳴いた。よっぽど待ち遠しかったらしい。シローが思わず喉の奥で噴き出すと、彼の方も自分で笑っていた。
「今持ってきます」
シローは口端をほころばせながらそう言って、ピッチャーを戻し配膳台の方へ足を向けた。
今日もまた、この大盛りの器を空っぽにして、トマトだけを残して彼は家に帰るのだろう。
そう思うと、また少し笑えた。
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「あれっ、店員さん!」
朝八時少し前、イヤホンから流れる音楽を飛び越えてその声はシローの耳に届いた。瞼の上に乗っていた眠気がふっと軽くなる。シローは思わず立ち止まった。
駅のホームの中ほどで、見慣れた顔がシローの方を見てにこにこしている。
眉の下がる笑い方と、犬の毛みたいな色の髪と、すらりと長い手足。
間違いない、昨日も律儀にトマトだけ食べ残して帰ったあのふわふわ頭の常連客だ。
「あ、ども……」
シローはずれ落ちそうなスクールバックを肩に掛けなおし、イヤホンを片方だけはずして答えた。
さらさらと日差しの降り注ぐ朝の駅のホームでは、多くの学生や会社員が上り電車を待っている。
シローもその電車で高校へと向かうつもりなのだが、彼も同じ電車に乗るべく並んでいたようだ。
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