627人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
* * *
(丹羽視点)
俺は深谷の話を詳しく聞いて、なんとなくおぼろげに思い出していた。
ある意味、俺と深谷の原点だったのに、すっかり忘れていた俺の脳みそがかなり心配だ。……クラゲ投げの話で思い出したところが俺らしい。
そうだ、俺の編み出したクラゲクラッシュボンバーという秘奥義を深谷に伝授しようと思ったんだったな、あの時。
「途中で、おまえの中で海に行く目的が貝探しから泳ぎに行くに変わったんだよ。あと「蛇の抜け殻探し」の方に意識もってかれてたしな。貝のこと絶対に忘れてるなって思ったけど、……まぁそれでもいいかって、黙っていた。俺の中でも、いつの間にか貝探しよりもおまえと海に行くこと自体が目的にすり替わっていたからさ。海だけじゃなくて、おまえと一緒に過ごすこと自体が楽しくて、他はどうでもよくなった。おまえは次々やりたいこと試したいことを見つけてくるから、忙しくて貝のことなんか俺も忘れちまってた」
俺と深谷は、俺の部屋のベッドに並んで座って話していた。
深谷の視線は、部屋の反対側のなにもない壁に向けられていたけど、どこかぼんやりと虚空を彷徨っているように見えた。
「おまえは好奇心旺盛で、面白いこと大好きだからさ」
膝の上で組んだ深谷の両手が、きゅっと握りこまれるのが視界の端に映りこんで、俺はなんだか……胸のあたりが苦しくなる。
「俺はさ、いつかおまえが俺以上に夢中になれる誰かを見つけて、俺のことをきれいさっぱり忘れちまうんじゃねえかって、それが心配だよ」
「どんだけ薄情もんだよ、俺」
「自分でも女々しいなって思う。――でも、不安なんだ」
深谷は昔から「公正」だ。
言葉にするのは難しいけど、なにが正しいのかをちゃんと弁(わきま)えている気がする。
自分のことだけじゃなく、ちゃんと周りを見て、俺が気付かないような些細なことにも配慮するきめ細やかさを持っていた。
最初のコメントを投稿しよう!