第1幕:背負われる歌姫

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久々に握ったマイクは、想像していたより温かかった。 前奏が流れると、体が勝手にリズムを刻む。 歌い出しの3秒前に思いきり息を吸い込み、腹と喉に全意識を集中。 マイクとの距離の取り方は、今でも体が覚えている。 そして、発声。 次の瞬間、この場にいた全員が息を飲んだ。 「うまっ!」 「鳥肌立った!」 それまで人の歌なんて聞いていなかった彼らは、会話をピタリと止め、私の歌声に耳を傾ける。 ああ、歌なんか歌いたくなかったのに。 曲が盛り上がるにつれ、みんなの表情がサビに向けて期待を露にする。 その期待に応えるべく、持っている技術の全てを込めて歌い上げれば、会場は歓声と拍手で湧いた。 ……しかし。 「次の曲、誰だっけ?」 「この後に歌うの、嫌だよね……」 ああ、だから歌いたくなかったのに。 “歌が上手すぎること” これは私、牧村明日香(まきむらあすか)最大のコンプレックスである。
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