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思い出話に花を咲かせて
カシャ。
病室のドアを開けると同時に、カメラのシャッター音が響いた。
その音を出した男の子が、カメラを構えたままベッドの上で振り向き、私の姿を確認すると、ふんわりと微笑んだ。
「おかえり、さくら」
「ただいま。また桜撮ってたの?」
「うん。今日もいい写真が撮れた」
私がベッドに近づきながら訪ねると、彼は満足そうに一つ頷いた。
ベッドのわきに鞄を置いて、カメラの画面に表示された桜を見ると、夕焼けにほんのりと染まりながらも自身の色を忘れず、儚く、しかし凛とそこにたたずむ五分咲きの桜の姿が映し出されていた。
「いいね、きれい」
呟くようにそう言うと、彼はくすくすと小さく笑った。
「さくらはそれしか言わないね」
「いいじゃない。いつだって本心から言ってるんだから」
「そうだね。それはわかるよ」
彼はカメラに視線を落とし、親指でそっと画面を一つ撫で、カメラの電源を落としてベッドわきの棚の上に置いた。
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