5人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「早いね。もう八分咲きか」
病室から見える桜は、先ほどの写真とはすでに印象が変わっていた。
もうすぐ夜へと移り変わろうとしている空にぼんやりと浮かんだ、どこか妖艶で、そして手を伸ばせば消えてしまいそうな。
「すぐに満開になるね。私たちが出会った季節に」
「もう、2年も前なんだね」
彼に視線を移すと、彼もまた目を細めて桜を眺めていた。
ほとんど一日中そこにいるであろうベッドのシーツからは、少し湿った汗の香りがしていた。
「ねえ空、覚えてる? 空がクラスでした自己紹介」
「覚えてるよ。桜の写真の話でしょ?」
「そう」
目を閉じると、汗の匂いとともに空の匂いが鼻をついた。
あたたかな陽だまりを思わせる、やわらかく優しい匂い。
その匂いとともに、私は2年前のことを思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!