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それを聞くと、追っ手のもう一人の侍大将は、舌打ちをした直後に、脇にいる配下に目配せをし、その配下もその目配せに頷くと、おもむろに弓を取り出し、狙いを定めて矢を引き絞り始めた。
ビュ!
武者が放った矢は、真っ直ぐに主従の主人と目される者の頭めがけて飛んで行き、男は矢が当たるその刹那、頭を傾けた。矢はそれと同時に、一筋の紅い直線を標的の頬に残し、そのまま前方へ飛翔して行った。
追っ手側の一番最初に主従へ声を掛けた侍大将が、自身の横から矢が放たれた様子を見て、驚愕と狼狽えが混ざったような表情で、
「おぬしら、何をしておる!我らは信廣さまを連れ戻す為に来たのでのであろう?」
と馬を駆けながら同輩に詰め寄る、もう一人の侍大将は面倒臭そうな表情を作って、
「仔細を説明する時間が無かったのだ、御屋形さまの意向じゃ、おぬしも我らに従えばそれで良い」
「し、しかし…」
と納得がいかない様子だった。
前方でその様子を見聞きしていた信廣は、みずからの頬に受けた傷で、追っ手が自分を殺す為に寄こされたのだと確信した、と同時に、
「三郎兵衛門、このまま逃げ続けても、我ら追いつかれ討たれるだけじゃ、いま追っ手は仲間割れの兆し、この混乱の好機を利用して、逆に我らで反撃し、不意を突くぞ!」
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