第一章  ー 出奔 ー

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第一章  ー 出奔 ー

 西暦1452年(宝徳(ほうとく)4年、享徳(きょうとく)元年7月25日(新暦8月10日))  室町幕府がある京都からほど近い、此処、若狭国(わかさのくに)(福井県西部)  『トカラットカラッ』と蹄の音が辺りに響き、暫くすると、ニつの馬上の男が森を駆け抜けて行くのがみえる。彼らは更にそのうしろから迫る騎馬武者集団に追われていた。  二人は夜陰に紛れて城を抜け出したが、城中の者に感づかれ、追っ手を差し向けられていた。 「お待ち下され!信廣(のぶひろ)さま!我らは信廣さまを引き止める為に追って来たのであって、危害を加えようなどとは思っておりませぬ!」  追っ手の中の侍大将と(もく)される一人が、前を駆け逃げる二人の主従を呼び止めるように大声をかける。  それに対し主従のあるじの男は、馬を駆けながら後方を目で意識しつつ、 「嘘をつくな!どうせ兄者の差し金であろう。あの兄が(それがし)を邪魔に思い、亡き者にしようとしてる事などお見通しじゃ!」     
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