9 終末(未来の記憶3)

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それから二人は、アベルが拠点としていた砦に戻った。もう、かつての仲間達の亡骸は無くなっていた。「アベルが気にするから」とダルネスが配下の魔物に命じて片付けさせたようだ。 ダルネスはやはり魔物達を使役する立場にあるらしい。彼の命令で魔物達が人間の残党狩りに出かけて行く姿をよく見る。しかし、彼が魔王そのものであるかはまだわからない。一度、勇気を出してダルネス自身に聞いてみたが「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」と曖昧な返答があったのみだ。 人間はほとんどが死に絶えたが、まだ息を潜めて生き長らえている者達が大陸全土に存在しているそうだ。ダルネスはなぜか人間の殲滅に拘っている。アベルがダルネスのものになったのだから、もう人間狩りの必要はないはずだ。やめてほしいと訴えたが「アベルが人間に誘惑されて、出て行ったら困る」と言って譲らないのだ。魔物になってまで、アベルを基準に考えているダルネスであった。 ダルネスはあれからアベルを執拗に求め、何度も身体を重ねた。本当に孕んでしまうのではないかとアベルが危惧するほど。相手が魔物だけに、人間の常識の範囲外のことが起きてもおかしくはない、と笑い話ではなく、アベルは一時期真剣に悩んでいた。 もう一つ、懸念があった。 ダルネスと共に過ごすうちに、ダルネスが毎夜、酷く何かに苦しんでいる様子をアベルは目撃した。 「ぐっ、ぐああつつ!!」 もがき、苦しみ、その場でのたうち回るダルネス。灰色の皮膚がどす黒くなり、紫の瞳が赤く染まる。必死に何かに耐え、平静を保とうと呼吸を整えている。 「ダルネス!!」 アベルは心配になり、ダルネスに近づこうとするが 「来るなっ!」 と、いつもダルネスに制され、アベルは途方にくれるしかなくなってしまう。 ダルネスは内なる何かと戦っている様子であった。原因はわからないが、ダルネスは得体の知れないものに侵食され、自我を蝕まれている様子であった。 「ごめん。アベルを傷つけたくないんだ…。自分が自分でなくなるような感じがした…。無性にアベルを殺したくて堪らなくなった…」 物騒な言葉を呟いたダルネス。真剣な口調からして冗談ではないらしい。これはダルネスが魔物に変容した代償なのだろうか。強大な魔物の力を得る代わりに、人間の理性の部分が減少し、破壊衝動が増大される仕組みなのかもしれないとアベルは予測した。
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