歴史年表

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歴史年表

 大学生の時、バイトでとある予備校のテスト採点をしていた。  俺の担当は歴史で、デキのいい子もいれば悪い子もいたが、中に一人、いかにも変わり者という印象の奴がいた。  そいつはテスト自体の点数はほぼ満点だったが、回答用紙の裏側に、びっしりと架空の歴史年表を書くような奴だった。  テスト中によくそんな時間があるなと思ったが、頭が良すぎて暇を持て余すのだろう。  書かれた年表は、平成以降の年号と歴史的事件だったが、あまりに内容のデキがいいので、こいつは将来作家になるべきだと本気で思ったし、年表が面白いからコピーして後で読み返したりもした。  そんな日々が遥か遠くなった今現在、人生の晩年に差し掛かった俺は、そろそろ身の回りを整えておくべきだろうと、古い自分の荷物を整理した。その時にコピーのインチキ年表を見つめ、過去を思い出すと共に愕然とした。  もう何十年…いや、半世紀以上前に一学生が書いた架空の年表の内容は、俺が生きてきた時代の流れそのものだったのだ。  平成以降の元号、起きた歴史的な事件や発見。それらに関わった人物名まで、かなりかすれて読みにくくなってはいたけれど、古いコピー用紙には寸分違わず記されていたのだ。  答案用紙の名前しか知らない、顔も見たことのない予備校生。そいつはいったい何者だったのか。今は一体どんな生活を送っているのか。  たまらなく気になるが、その消息を知ることはきっと一生ないだろう。 歴史年表…完
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