茜さす君、走る

3/65
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
思わず立ち止まり、ゼイゼイと息をつく。 なぜ大学2年生にもなって、こんなに全力で走っているのだろうか。 肩で息をし、汗が首筋をつたう。肩まである髪は、ぬるい風に揺れていた。 9月とはいえ、京都の夏は暑い。 照りつける太陽が体中の筋肉をきしませている。 晴子は辺りを見回し、人がいないのを確認すると、近くの日陰へと移った。 「走るがいい! 若き歌い手よ! 君たちは何のために歌う?  何のためにその道を駆け抜けるのだ!」 走っているのは、本意じゃないんだけどな……、と晴子は遠くから聞こえてくるその声に、心の中で呟いた。 日差しが当たらずとも、汗はどんどんと流れ出る。 手首に巻いた2本のリボンは、少しだけ湿っていた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!