溜まった、僕の、ルサンチマン

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 臭いものに蓋をするという行為は、処世術としては不完全だ。確かに、物理的には臭いものは消失するが、しかし精神的に存在を拭い去れるわけではないのである。だから僕の目下の課題は心にも蓋をしてしまうことにあった。  一方で、それはとても残酷なことなのだけど、とても簡単なことでもある。要するに忘れてしまえば良いわけだ。記憶の彼方へ、忘却の旅路へと向かわせれば良い。綺麗さっぱり存在を忘れてしまうというのは、とてもかわいそうなことだとは思う。けれども、致し方ない。僕の精神衛生上、それが最も効率的なのだ。それに、かわいい娘には旅をさせろって昔からよく言うしね。  まずはモノにしっかりと蓋をする。そして、記憶にも蓋を。これで完了。あっけないものだ。だが、実のところ原始の頃から人間の本質は変わっていないのかもしれない。  人間は忘却することで、明日への活力を得る生き物なのだから。  しかし、今になって思えば、彼女はそんな僕を傍らでじっと見ていたのだろう。問いかけるでもなく、ことさらにじっと。  そんなことなど毫も知らない昨日までの僕は、ベッドにもぐりこみ、夢の世界へと意識を沈めていった。
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