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ではございません。でも、あたくしどもには果たさねばならぬ大切な務めがございます。ここは慎重を期した方が良いかと」
「徳叉迦、うぬは心配性じゃのう」
和修吉をなだめたのは脇差しを差したもう一人の陣羽織だ。
この青年は優鉢羅とはまた違った美しさを持っている。優鉢羅は男性的な優美さを誇っているが、徳叉迦の美貌は女性的で妖童と呼ぶにふさわしい。
そして何より人目を惹くのは、柘榴石のような左眼だ。事実、その瞳に見つめられた粗暴な和修吉が、先程までの興奮が嘘のように静められ、苦笑を浮かべているではないか。
「で、追っ手の数は?」
優鉢羅は人差し指を立てた。表情は相変わらず能面のようだ。
「ケッ、わしらもナメられたもんだ」
「寄越さなかったのではない、寄越せなかったのだ。どちらにしろ優鉢羅の式を一人で打ち破ったとなると、侮ることはできぬ」
腰に太刀を佩いた、着流しの男が口を開いた。眉間に刃物で斬られた醜い傷跡がある。男はそれを指でなぞっていた。
「阿那婆達多の云う通りぞ。我ら八大竜王にたった一人で立ち向かわせるとは、東軍もよほどの者を送り込んだに相違ない」
「難陀さま……」
和修吉は悪戯を母親に見つかった子供のような顔をした。
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