白と青と緑

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 モコモコと膨らんだ真っ白い入道雲が鮮やかなターコイズブルーの空に鎮座する。これまた白とも、人によっては黄色、橙色ともとれる眩い光に強く照らされ、純白の入道雲はその身にくっきりと凹凸を浮かび上がらせている。その堂々たる風格たるや、真夏の王様と表現しても差し支えないかも知れない。  豊かに繁った木々から聞こえてくるクマゼミの音色は、似たような鳴き声のミンミンゼミに比べてゆっくりどっしりと響き、田んぼよりはビルの方が多くても、どちらかと言えば田舎寄りな街並みには自然と溶け込む。  白と青と緑。この3つの色で連想する季節はいつかと問われたとき、ほとんどの人が夏だと答えるはずだ。それほど青空に入道雲はよく映えるし、風に遊ばれる木々のざわめきは目を閉じればその様子すらも鮮明に脳裏に咲く。  片側2車線の道路の中央には敷石こそ見当たらないものの、引かれた2本の赤焦げたレールに従って走る箱形の乗り物の姿が有り、自動車と同じように赤の信号に対して、レールと車輪を摩擦で軋ませながら減速をしていく。平成の世、数少ない現存する路面電車だ。  交差点で右折しようとするものなら、対向車だけで無く路面電車のレールを踏んでしまわないように意識して右折のタイミングを待たなければならない。うっかりしようものなら背後から急に電車特有のファーンという大きな警笛を鳴らされ、たちまち周りから余所者というレッテルを貼られてしまう。ここはそんな街だ。  道路の真ん中に、まるで小さな孤島のように佇む駅舎には申し訳程度に庇があるが、容赦なく降り注ぐ夏の陽射しを遮るにはあまりにも頼りない。雨でも降ろうものなら、そよ風程度で靴はおろかズボンの裾まで水玉模様を描くだろう。幸い電車の往来は多いため、本来の布地よりも濃い色合いの水玉が全てを侵蝕し、行き場を失った水滴が滴り落ちるなんて事は、よっぽどの豪雨などで無ければ起きやしない。最も、そんな豪雨であれば駅舎のちょこんとした庇に頼らず、各々が紺や白や透明な無地の傘を開くだろう。  子供の頃は、傘と言えば黄色。そうでなくても華やかな色彩の、賑やかな絵柄が個々のアイデンティティーを主張していたように思う。いつからだろう。無個性に、紺や白や透明を選んで使うようになったのは…………
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