4.秘密の写真

3/3
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「知らない子?」 「小さな女の子でね、和樹はお母さんじゃないっていうし、駈はわたしに似てるっていうし、ピンクのドレスを着ててね……」 「……っ」  いきなりお父さんがコーヒーを吹き出して花梨はびっくりする。ごほごほむせながら涙目になってお父さんが花梨に訊く。 「見たのか?」 「見たから訊いてるんだけど。お父さん知ってる?」  ぶんぶんとすごい勢いでお父さんは首を振る。 「お父さんは知らない。花梨も早く忘れろ」  なんだそれは。気に入らない気もしたが父があまりにダメージを受けている様子なので花梨は大人しく引き下がってあげた。  入浴の後、花梨が寝入ったのを見計らって彼は電話を取り上げた。 「もしもし?」  電話口に出た相手に話しても大丈夫かと前置きする。了承を貰って彼は幾分声を大きくして問い詰めた。 「ねえ、なんであの写真まだ持ってるの? 兄貴に返したんじゃなかったの?」 『なんのこと?』 「先輩の卒業アルバムに挟まってたの子どもたちが見つけたって」 『ああ。そうだったかな、覚えてないや』  まったくこの人は。ぐりぐりと彼は自分の眉間を揉む。 「なんでよりによって家に置いとくの? 一ノ瀬さんに見られたらって思うとぞっとする。ちゃんと処分してよ。いい?」 『わかったわかった』  笑いを含んだ声が軽い調子で返事をして、それから訝し気に尋ねてきた。 『あの子たちはどうして私のものを漁ったの?』 「花梨が、お母さんの写真はないのかって」 『ふうん?』 「寂しいんだと思うよ」  沈黙が降りた電話口に彼はそっと囁く。 「おれも寂しい」 『私も』  返ってきたやさしい声音に怒りが霧散していることに気づく。駄目だな、自分。いくつになっても。 『もうすぐ帰れるから』 「うん。待ってる」  愛する人に向かって彼も優しく言葉を返した。 「おじいちゃん、おばあちゃんの言うことちゃんと聞くんだぞ。八時に迎えに来るからな」 「はあい」 「ありがとうございました」  母方の祖父母の家の前で花梨と和樹がクルマを降りていく。最後に残った駈はじっと花梨のお父さんの顔を見つめる。 「えーと、どうしたの?」 「……ボク、誰にも言いませんから」 「……。それはどうもありがとう」  苦く笑った花梨の父親に会釈して、駈もクルマを降りて玄関に向かった。  お母さんは天使で悪魔で女神様。いたずら好きは直らない。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!