un―アン―

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「だいたいあなた、どこのどなたなんですか!」  だが、睨み上げたまま多少上ずった声で牽制するように発した私の言葉はアッサリと無視されたようで、失恋男(勝手にこう呼ぶことにした。名前知らないし)は、ショックからなのかそれとも怒りからなのか、はたまたその5~6キロはありそうな花束が重いのかはわからないが両手をプルプルとさせて、まるで時間が止まったように固まったままだった。  当の本人からの返事がないので、姉にチラリと問うような視線を向けると「うーん……? マコちゃん知ってる?」という視線を返される。 いやいや、プロポーズされてるあなたが知らないのに私が知るハズないでしょーが……と心の中で暢気な姉に気をもみつつもいっそう目の前の男を警戒する。 姉が知らない人物なのに家を知っていて『運命の人』とか言い出すあたり本当にかなりヤバイ奴決定だ。むしろストーカー男決定だ。 いざとなったら私がこのストーカー男(危険度があがったので早速呼び方を変えることにする)から姉を守らねば! 家の隣は空手道場(十二年前に廃業&通ったことはない)だぞ、コラァ! と何の利益も確証にもならないことで私が無駄に闘争本能を高ぶらせていると、止まっていた時が戻ってきたのかいきなりストーカー男は両手をプルプルとさせて持っていた花束をドサッと落とし、頭を抱えて嘆き叫んだ。
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