強がり女

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「何で、何でいつもいつも……」  あんな言い方しかできないの――? 「私だって……」  本当は、     (素直に、なりたい)  せめて、「ありがとう」と言える勇気があれば。  西日が差す小部屋の窓辺からは、オレンジ色に染まった街並みが広がる。  敦子は、不意の涙で霞んだ視界をぼんやりと見つめた。 「馬鹿女……」  それは、私。  それを認められない、強情な私。  強がりばかり言って、  すぐに人を当てにする女は醜いとさえ思っていた。  醜いと思う女が何故受け入れられ、自力で頑張る女はスルーされるのか。  それは全然理解できないし、何より腑に落ちなかった。  そんな女に翻弄される男も馬鹿だと思った。  ヒーロー気取りで、この私に近づくなんて10年早いのよ! とさえ思った。  そんなことしたって、業績アップするわけでもないのに、と。  私は、臆病者。  強がりだらけの、醜い女。  敦子はファイルを開いた。  10年前に書いた、自身の履歴書があった。 「自己PR……」 【私は、どんな困難に陥っても、人を頼らず自力で乗り越えていける強さがあります。  もし身近で困っている人がいたら、手を差し伸べてあげられる存在になりたいです。】  再び、雫がこぼれ落ちた。 「手を、差し伸べる……」  ああ、漸くわかった。    これは、こだわりなのだ。 「人に手を差し伸べる」ことで、私は自分の価値を見出そうとしていたのだ。  だから、「人から手を差し伸べられる」ことで、私の中の均衡は崩される。  その手をとれば、私の価値がなくなってしまうような気がして、怖かったのだ。  私は、自分の価値を守るために、彼の厚意を拒んだ。しかも、邪魔だから……と余計な一言までつけて。   「ごめんなさい……」  私がもっと素直だったら、今すぐに彼のところへ謝罪に行けただろう。  でも、足が動かない。  頑なになるのは、自身のプライドのせいなのだろう。  いや、プライドのせいにしている、己自身だ。  苦しい。  こんなにも苦しくなるなら、  プライドなんていらない。  でも、  今さら自分を崩すことなんてできない。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!