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 放課後の図書室。  趣味の読書を楽しんでいた彼は、最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴ったのに気づき、ふと顔を上げた。 「あれ、もうそんな時間?」  受付の奥の壁に掛けられたレトロ調な時計を確認した彼。本を読むのに邪魔だと閉めきっていたカーテンの隙間から夕陽が漏れているのに気づき、しまったと思った。 「今日は特に遅いな。どうせ没頭して忘れてんだろうけど……」  小さな溜め息をこぼすと、本を閉じて席を立った。  彼がこんな時間になるまで図書室に留まっていたのは、なにも本を読むためではない。それはあくまで時間を潰すためであって、本来の目的は、クラスメイトが部活を終えるのを待つためだった。  クラスメイトとは家が近所の女子で、いわゆる幼なじみだ。同い年ということもあり、小学校の頃から毎日のように登下校を共にしてきた。もはや習慣で、彼女の両親に面倒を頼まれていることもあり、中学生になった今もその関係を継続していた。  秋になり、夜の訪れが早くなってきている。急いで帰らなければ彼女の親に心配をかけてしまう。変な勘繰りをされては困るので、急ぎ図書室を後にした。     
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