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彼女がいるはずの美術室にやってきた彼は、一応の礼儀とドアをノックし、「おーい、もう帰るぞー」と呼びかけた。だが、返事が無い。
「あれ? おーい、入るぞー?」
もう一度ノックしてからドアを開け、室内を覗いた。
夕焼けの色に染まる美術室。すっかり片付けられた室内の中央に机が一台だけ残されているのだが、そこに腕を枕に眠る一人の女子の姿があった。
「あー、そういうことか」
返事が無い理由を察した彼は、くいと肩をすくめた。
「どうせまた夜更かしでもしたんだろう。……あ、そうだ、せっかくだから寝顔を撮ってやろう」
意地悪な笑みを浮かべると、静かに部屋に入り、音を立てぬようドアを閉め、抜き足差し足で彼女の元へ向かった。その手には、ポケットから取り出したスマートフォンがある。
「……あ、落ちてんじゃん」
夕陽に同化していたので近づかなければわからなかったが、机のそばにカボチャが落ちていた。彼の頭よりも大きいのに片手で持ち上げられるほど軽いそれは、ハリボテの“ジャック・オー・ランタン”だ。
下向きに湾曲した二つの目と、両端が吊り上った大きな口があるので、不気味な笑みを浮かべているように見える。
そのジャックは、数日後に開催されるハロウィンパーティーのコスチュームで、眠り姫が二週間前から制作を手掛けているものの一つである。
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