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電気
向かいのワンルームマンションに住む先輩が、うちのワンルームマンションに引っ越すからと手伝いを要請された。急に取り壊しが決まったらしい。
「まあ、ほとんど空き部屋だったしな」
五階建てのほとんどが空き部屋なら、取り壊したくもなるだろう。
先輩の部屋は最上階で引っ越し先も最上階。階段の上り下りが多くて辛い。短距離の引っ越しだからと侮っていた。
「勘弁してくださいよ」
「俺は最上階が好きなんだ。飯と酒は奢ってやるからキリキリ働け」
なんて物言いだ。
だが、貧乏大学生として飯の誘惑には勝てぬものだ。
俺は、言われるままにキリキリと働いた。
飯はコンビニ弁当。酒は先輩の飲みかけ。安くあげられたものだ。
仕方なくタダ酒をしこたま飲んでやった。
程よく酔いが回ったころ、先輩がポツリと呟いた。
「変な部屋だったなぁ」
「そうなんですか?」
「うん、なんか空気が重くてな。部屋の中に人の気配がしたり、突然ドアノブガチャガチャやられたり、なんか見られているような気がしたこともあったな」
「良く、そんなところに住んでましたね」
「安かったから」
先輩が口した家賃は、うちより三千円も安かった。納得。
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