拝んではいけない

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拝んではいけない

よく交通事故が起こった現場に花束が置かれています。子どもの頃思わず手を合わせてしまったことがありますが、いわゆる見える人だった私の母に、霊が憑いてくるから拝んではいけないーーときつく言われたのを覚えています。 ある日、私が週に一回通う図書館の前の通りで事故があったらしく、電柱の下に花束が置いてあり、その前で手を合わせている若い女性がいました。そのときは家族なんだろうと素通りして家に帰りました。 その一週間後、ざあざあ振りの雨の中、同じ場所で手を合わせている人を見つけました。今回は年配の女性でした。よっぽど悲しい事件なんだと思いました。幼い子どもが亡くなったのでしょうか。女性は傘もささず一心不乱に祈っていました。 ふと女性と視線が合いました。あまりにも痛々しい女性の姿に、私は声をかけていました。 「あの、御愁傷様です」 女性は笑顔を浮かべました。私は、軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとしましたが、「待ってください」と引き止める声が背中に掛けられました。女性は「ぜひ、手を合わせていってくれませんか? 孫娘も喜びます」と言うのです。     
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