そこに顔が

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大学生の時、私はマンションを借りて独り暮らしをしていた。 都内にあるキャンパスへは電車5分。歩いても行ける距離だ。 郊外にある実家からも通えなくは無いが、片道二時間は少々たるい。 一つ下の弟は高校卒業後、進学も就職もせずフリーターをしながら 音楽活動などをしてブラブラしていた。  深夜まで都内で遊びあかし、良く泊まりにも来ていた。 その日夜遅くまでバイトしていた私は、くたくただった。携帯には弟から『今日、泊まらせて』とメールが入っている。 弟に甘い私は合鍵も既に渡しており、部屋の半分は弟の私物で溢れている。 『泊まり代、コンビニスイーツ』  と返信をし、携帯をポケットにしまう。 自宅マンションに着き、エレベーターで四階へと昇る。 共用廊下に出ると、私の部屋の電気がついていた。既に部屋に上がりこんでいるのだろう。廊下に面した窓から、ヒョイッと弟が顔を覗かせた。 深夜の暗がりで分からないがニヤニヤと笑っているように見える。私の姿を確認しすぐ顔を引っ込めた。 エレベーターの音が聞こえたのか、耳ざとい奴だ。 「ただいまー」  玄関の扉を開きながら少々大きな声を出した。家の中の電気が全てつけっ放しだ。だらしの無い奴。 その時、ポケットで携帯が震えた。何気なく取り出すと弟からのメールだった。 『今、コンビニでスイーツ買ってるけど何系がいい?』  同時に私の部屋のドアノブがガチャと、動き始めた。 私は無我夢中で家を飛び出て弟に電話をかける。思いのほかすぐに出た。 「ちょ、姉貴ビビり過ぎ。ごめんごめん、戻って来い」  殺してやろうか、と思いながら家へと戻る。そこにはリビングで胡坐をかきながらテレビゲームをしている弟が居た。 「ケーキが冷蔵庫入ってるから」  悪びれも無くそう言う頭を叩く。 「二度とするなよ。次やったら泊めないからな」  弟はへらへら笑いながら言った。 「ビビるの早すぎるわ。せっかく二時間も布団に隠れてたのに台無しじゃねえか」
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