【第二章:スズと風のサーカス団シルフ 一】

3/6
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 喫茶店側の店内に出てみると、こちらはこちらでギンコの店とは雰囲気が違い、女性らしい温かみを感じる、落ち着ける場所だった。  家具は洗練された、というよりは木の質感を生かした素朴なものだ。  テーブルの上には親指ほどのガラスの一輪挿しに、スミレのような可愛らしい花が、窓辺にはやや大きめの花瓶に、ラベンダーのように小さな花をたくさんつける淡い薄紫の花などが、ふんわりとした緑の植物と一緒に生けられている。  レジカウンター横の小さな棚には、リボンで結ばれた小袋入りのクッキーなどのお菓子、ポプリやマスコット、ランチョンマットなどの布製品、小振りで可愛らしいティーカップなどの食器が置かれている。  たぶんここで購入することができるのだろう。  居心地も良さそうな店だが、お客は誰もいない。  喫茶店だから、お茶の時間から開店なのだろうか? 「今日はお天気が良いからね、外で食べよう!」  リン、と鈴の音を鳴らして少々厚みのあるドアを開けると、そこにはウッドデッキのテラス席が三つほどあった。  向かって右には二人掛けの席が二つ、左には四人掛けの少し大きめの席が用意されていた。  迷わず左側の席を選んで手前側にスズを座らせ、自分も席に着くと、ギンコは仮面を外してテーブルの上で指を組み、その上にあごを乗せてこう言った。 「さて……じゃあ他にこの世界について何か聞きたいことはある? 何でも聞いてよ!」  何から聞いていいのか解らなかったので、スズも仮面を取りながら、「……じゃあ、とりあえずギンコさんの本名は?」と聞いてみた。  この世界に住んでいるギンコの話、だからそれもアリだろう。 「…………」  沈黙。  組み合わさった指の上で笑顔のままギンコは固まっている。  そこへレオナが銀のお盆に紅茶を乗せて運んできた。  スズにはミルクたっぷりのミルクティー、ギンコにはレモンの砂糖漬けが添えられた紅茶が注がれた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!