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足を、掴まれた。
……いや違う。正しくは「足を掴まれている」だ。現在進行形で冷たい指が、氷のような温度の手が、私の足首をギュッと握っている。一人暮らしの部屋の中で、壁にピッタリとくっ付けて置いているパソコンデスクの下の暗がりに伸ばした私の左足の、くるぶしのあたりを、冷たい手がギュッと。
声も出ないとはこのことなのだと、初めての経験を頭の片隅のどこかで感心しているが、脳味噌の主な部分では必死にこの現象の答えを探していた。壁に穴が開いて隣と繋がっちゃったのかなとか、下に誰かが隠れてて驚かせようとしているのかなとか。
だがこのデスクの下にそんな空間的余裕が無いのは自分が一番知っているし、私の爪先はずっと壁に接触していた。狭いせいか、足を伸ばすと自然と壁を押す形になるのだ。だからその壁に穴なんかが開いていたら気付かないわけがないし、それによく考えたら隣と繋がってる壁は右側であって、この方向には部屋どころか窓もベランダもなかった。というか、そもそも私の部屋は二階で、この壁の向こうは隣家すらない空間のはずだ。
時刻は真夜中で、辺りはしんと静まりかえっている。普段は時々遠くで聞こえる車の音も、今夜は一切聞こえてこない。耳に入るものはガチガチと鳴る自分の歯の音と、激しく脈打つ心臓の鼓動だけだ。
掴まれてからもうどれくらい時間が経ったのだろう。あれから私はずっと動けないままだった。なにしろ初めての体験で、こんな時にどうしたらいいのかが分からないのだ。今さら立ち上がるとか足を引くという勇気もないし、ましてや下を覗くなんて絶対に無理だ。このままの状態でい続けるのも嫌だけれど、恐怖に竦んでしまってて指の一本も動かせない。
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