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ニコルはあの闇の中にいた。
ただ、いつものように動揺することはなかった。
むしろ穏やかですらあった。
闇の先に、少年が――ニコル自身が蹲っている。
「助けて……助けて…………っ」
ニコルは歩んでいく。
自分を蝕むように四方から迫り来る、ニコルは突き進んでいく。
一歩、二歩、三歩……。
少年の間近まで来ると、片膝を折り、蹲る少年と目を合わせる格好になる。
そうして少年の頭に優しく手を乗せた。
「僕が助けるよ」
少年の声が止まり、おずおずという風に少年が顔を上げる。
そこにあるのは幼少期のニコル。
ニコルがずっと自分自身を守る為、記憶の奥底に沈ませ、頑なに拒み続けてきた記憶の断片。
この闇の中に幼い頃の自分は取り残されたまま気付いて欲しいとニコルに訴えかけてきたのだ。
ニコルはそれに気付かず、見ない振りをしてきた。
でももうこれからは違うのだ。
「もう大丈夫だから」
ニコルは少年を抱きしめた。
幼少の自分はおずおずとニコルの背中に腕を回す。
ありがとう……。
――そんな声が聞こえた気がした。
そして少年の身体が眩い光を発し、ニコルを包んでいく。
闇は払われ、ニコルの視界もまた真っ白に塗り潰された。
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