祭りの日の女の子

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Iさんはとても驚いた。今まで外の子どもと遊ぶことなんてなかったし、下の名前で呼ばれることなんてとんとなかった。けれど、同時に嬉しかった。胸が躍るような気持ちというのをこのとき初めて感じたという。 「……ばってん、外にいっちゃいかんって……」 「夕刻までに戻っちくればええやろ」 それなら、とIさんは戸を開けて外へと出た。女の子はS子と名乗り、Iさんの手を握って歩き始めた。 「祭りの準備んとこ行こう。大人に見つからんとこがあっけん」 S子の声の合間に砂利を踏む音、草木が揺れる音、小鳥の囀りが聞こえ、外にいることの実感を噛み締める。 次第に小鳥の囀りは止み、なぜかS子も言葉少なになった。Iさんの問いかけにも生返事が返ってくるだけ。Iさんは初めて恐ろしくなった。目の前で手を引くこの子は誰なんだろう。どんな、人なのだろう。 「怖いんか? Nちゃん」 低い地底から響いてくるようなその声はさきほどまでのS子の声ではなかった。 Iさんは足を止めた。恐る恐る「誰?」と問いかける。 「なんや」 声が一際大きくなった。S子が振り向いたのだ。 「何も知らないんか? ウチはなぁーー」 「N! お前こぎゃんとこで何やっとるんか!!」     
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