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「倫、ちょっと話があるんだけど」   そんな毎日を送っていたある日、自分の部屋に上がる前に、お母さんに呼び止められた。夜勤続きだったお母さんは、久しぶりに夜に家にいた。 「何?」 お姉ちゃんと勇と藍は、1時間くらい前に隣の部屋で一緒に眠ってしまったので、あまり声を出さないようにして聞き返す。お母さんが座っているダイニングテーブルの向かい側にまで足を戻した。 「最近、お迎えの時間が遅いって勇と藍が言ってたけど」 「あぁ……体育祭前だから、ちょっと……」   私は細かく説明するのが億劫で、そう言って「ごめんなさい」と先に謝る。 「夢中になるのは分かるけど、時間は守りなさいよ。勇と藍はまだ小さいんだから、不安にさせないで。お姉ちゃんも心配するじゃない。あと、夜遅くまで電気がついてるみたいだけど、疲れてるんなら早く寝なさい」   子どもたちの面倒を見ろと言われてるから宿題が済まなくて、などとは言えなかった。お母さんは、その後も小言を続ける。私はひたすら「はい」を繰り返した。 「あと、最近食欲ないような気がするけど、大丈夫なの?」   私はいつものように口角を上げる。そして、 「大丈夫だよ」 と笑ってみせた。
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