おそらく告白されている

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教師なんて仕事をしていると時には生徒からの相談事を受けることもある。 特に新任の、大学を出たばかりの女性教師ともなれば年も近く感性も近いように感じるのか、女子生徒からの恋愛相談がかなりの頻度で持ちかけられる。 うちの高校は比較的ベテランの、つまりお年を召された先生が多いのも相まってそういった相談は私に一点集中してしまっているのが現状で、隣の40代の先輩先生からは『まぁ、桜先生は人気者ねぇ』なんて賞賛と嫌味が一緒くたになったような言葉を頂くわけだけれど。 はっきりいってそういった相談事はとてもメンドくさいのだ。 現代を生きる教師にとって、生徒の内面に深入りすることは百害あって一利なしだ。 冷たい言い方になってしまうかもしれないけれど、事実その通り。 特に恋愛なんて人間関係の根幹に障る事柄には一層の注意が必要で、危険な地雷原というよりは高度なセキュリティの掛かった大銀行の金庫のようなもので、つまり一歩足を踏み込んだ時点で終わりなのだ。 だから私はセキュリティフリーの外野から、やれ『素敵な話だね』とか『すごくよくわかるよ』とか肯定的であり非建設的な相槌を打つことに終始してしまう。 でもなぜかこれが生徒受けがいいらしく、もはや『恋愛相談担当教師』みたいな立ち位置に据えられてしまった。 私自身、それはそれは灰色の学生生活を過ごして、大した経験則も持っていないのが尚心苦しい限りなのだけれど。 今日も今日で、相談を受けて欲しいと言われ、放課後の教室で生徒と向かい合っているわけなのだけれど、今日はいつもと趣が違った。 男子生徒なのだ。 「桜先生、申し訳ありません。時間を割いていただいて」 「ううん、いいんだけどね・・・。君は、3年1組の・・坪井くんよね?」 「ご存知でしたか。はい、3年1組の坪井です。先生の担当クラスではないですが」 「そう・・・だよね。相談って、例えば担任の帯山先生には言いづらいことなの?」 「いえ、そういうわけではありませんが」 「そう・・・」 担当クラスではない、というより今の3年の現国の授業は一度も受け持ったことが無い。 「というより桜先生でないと意味がないので」 「意味?どんな相談事なのかな」 「平たく言えば恋愛相談ですかね」
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