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―――?
僅かに気温が下がったのが分かった。
異質な気配を感じ、リクは大樹の下で足を止める。
絵の題材を探しに訪れた森の中で、方向感覚に優れたリクが今朝は見事に道に迷い、気がついたらこの廃村にたどり着いていたのだ。
今思えば、そこからすでにおかしかった。
すぐ背後に渓谷を抱く、四半世紀ほど前に廃れてしまった集落。
朽ちて崩れ落ちた屋根、壁、柱。基礎と錆びた家電だけが残った家々の骸。異様な空気。
まだ9月上旬だというのに、立ち込める霧と冷気は境界を越えてしまったことを意味する。
霊感を持つ者だけに与えられた感覚だ。
けれどいつもの様な嫌悪感は、リクの中に湧いて来なかった。
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